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国の関与のありかた、補助金問題などの政府間財政関係を中心に検討が行われ、権限の具体的な所在にまでは議論が進んでいないことも影響しているといえるだろう3)。
それでは、当面、地方分権改革において大都市制度を論じることの意味は大きくはないのかといえば、そうともいえない。なぜならば、かりに二段階分権の手順がとられた場合、都制は当然として、指定都市も市町村に府県の要素を加えているという特殊性から、第1段階の分権と第2段階の分権における2つの課題が1つの政府単位に重なっているという考察対象としての重要性があると考えられる。また第2段階の分権で浮上してくる可能性のある諸課題は、すでに指定都市が市町村の立場で、東京都が府県の立場で経験してきており、したがって、指定都市を抱えない県や一般市町村にとっても、大都市制度のありかたは他人事では終わらないのではないかという仮説的な問題設定ができる。
さらに後述のように、分権改革の過程に指定都市も新たに参入し、大都市の立場を主張しはじめている。
こうした理由から、近年の地方分権論と大都市制度論の交錯状況と指定都市の分権要望事項を素材として、本章では、分権型社会における大都市制度を考察するための予備的作業を行う。したがって以下では、事実関係の検証よりも諸議論の整理と分析視点の検索が中心となる。

 

2. 地方分権にかかわる大都市制度論の論調
本節では、地方分権とのかかわりで大都市および大都市制度がどのようにとらえられているのかということについて、近年の文献を手がかりとして論点整理を行っておきたい。またその際、比較的包括的検討がなされ、多くの文献で取り上げられている1991年の『市民のくらしからみた明日の大都市「明日都市懇」報告書』をべースとしながら、他の文献の議論を重ねてみることにする4)。

 

(1) 問題の所在
まず地方分権という観点から、現行の大都市制度のどこに問題性を見いだしているのかということでは、およそ4つの類型に整理可能である。すなわち、?@集権システムがもたらしている一般市町村と共通の問題、?A一般市町村と共通した問題の延長線上にあるが、大都市特有の行政課題のために強くあらわれている問題、?B大都市特例がもたらしている

 

 

 

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